ギターとヤスリと彫刻刀

業務用ドリップポット

高校生の頃はギター小僧でした。
本屋に行けば必ずと言っていい程ギター雑誌をチェックし、
中でもいろんなギタリストの愛器を紹介するコーナーが好きでした。
そこに登場するギターは、ビンテージのものが多く、
塗装が薄くなったりひび割れていたりして風格があるものばかり。
当時の僕は、それっぽくみせる事への拘りだけはあったので、
さっそく買って間もない自分のギターを雑誌の中のギターに近づけるべく、
ヤスリや彫刻刀でキズを付けたりしました。
鏡に映るお手製即席ダメージギターを肩から下げた姿は、
思い出しただけでも腕で大根がおろせそうです。

僕が未だにダメージジーンズなどの加工品に少し抵抗があるのは、
この小っ恥ずかしい過去があったからだと思いますが、
だけど、経年によるくたびれた感じが醸し出す
「自分のものにしてる感」に対しては相変わらず憧れます。
数あるドリップポットの中でこれを使おうと思ったのも、
雑誌の写真がきっかけでした。
そのポットの表面にはくすんだように無数の細かい傷がつき、
うっすらと錆びついていて、いかにも使い倒している感じ。
ここで安直にも「よし、買ったら早速ダメージを与えよう!」
と思わなかったのは成長した所だったと自負します。

長く使うとどうなるか

「古いもの・ジャンクなもの」自体ではなくて
「愛着がわきそうなもの」に惹かれているというのは、
高校生の頃には気付かなかった事です。
初めて手にした時のコンディションは
新品かもしれないし中古かもしれない。
そこで愛着がわけば長く使うだろうし、
使用頻度も多くなる。その結果それに見合った風格が
にじみ出てくるわけですから、
使いもしないうちにわざと傷つけたりするのは、
僕が感じていた魅力を引き出すのにはずいぶんお門違いな行動でした。

ヤスリと彫刻刀は工具箱に片付けて、
「愛用された姿」になることを目指して
このピカピカのポットを使いだしました。

入り口は完全に形からでしたが、使い心地・お湯の
コントロールのしやすさは、さすが業務用というだけのことはあります。
もちろんお湯を注ぐだけなのだから、
別に専用のポットじゃなくてもいいはずで、
ビーカーや薬缶、それこそ片口の器とかでも事足りる気がします。

だけど、コーヒーを美味しく淹れるためには、
挽きたてのコーヒー粉に適量の水分を含ませ、
しっかり蒸らさないといけません。
粉の中心に狙いを定め、ポタポタと水滴を滴し、
粉全体に均一に水分を含ませるように注ぐのは、
ドリップに特化したポットが断然やりやすい。

ビーカーや薬缶では、お湯は注げるけど線が波打つから
狙いが定まらないんですよね。
その結果ついついお湯を注ぎすぎてしまったりして
水っぽいコーヒーになってしまう。
その点このポットはかなり優秀で、微妙な傾きでお湯を注いでも
波打つ事もなく綺麗な線を描きます。
ポットを起こす瞬間も水滴がボタボタと落ちる事もありません。
適量の湯量でストップし、じっくりと蒸らす事で
最初に落ちる一滴からしっかり濃くて美味しいコーヒーを
抽出することができます。

僕の普段のコーヒーは、「ティータイムにお茶菓子といただく」
といったような優雅なものではなく、朝起きてボーッとしてる時や
文章を考えたりPCに向かったりするときに飲む、とても地味なもの。
だからこそ、このポットでじっくりドリップした
濃いめの飲み口のコーヒーが嬉しいし、
そのおかげでほんの少し背筋がのびて、
ほんの少し作業がはかどるんです。

ドリップ作業は、眠くなったり、
考えに煮詰まったときのいい気分転換にもなりますしね。

容量は0.9L。一度で4人分淹れられます。
普段は1〜2人分(+おかわり分)、たまに来客などで
3〜4人くらいのペースでコーヒーを淹れるなら、
この容量はとてもいいバランスです。
どうしても5人分以上淹れないとだめなときは、
2度に分けて淹れればいいし、その頻度も低いのであれば
0.9Lというサイズは普段使いにちょうど良い
扱いやすいサイズだと思います。
それに、片手でドリップする事を考慮しても、
あまり容量が大きすぎても困りものですからね。

お湯を細く出し続けても、お湯の線が波打つ事もありません。
お湯を一定の細さでツーッ・ツーッと
リズミカルに操ることができ、
粉全体に均一に水分を含ませる事ができます。
点滴のように落とすのはコツを掴まないと
安定させるのはちょっと難しいけど、できますよ。

珈琲の本などで、よく「ドリップに適した温度は〜度から」
と目にしていたので一時期は温度計を使って
シビアに計ってたこともあったんですが、
それも煩わしくなってすぐ辞めました。
僕には「鍋でお湯を沸かし、沸騰したらポットに移し替えて温度を下げる」
ぐらいのざっくりした温度調整のやり方が一番しっくりきました。

なので、僕は普段このポット自体でお湯を沸かす事はあまりないし、
一日2、3回は珈琲を淹れるのでフタは常に外しっ放しです。
フタが無い写真が多いのはそのためですが、
このフタを外した見た目もバランスが良くて気に入っています。

でも、こうやってお店に並んでいる姿だけではなく、
普段使いの姿になって気に入るかどうかっていうのも
愛着が湧くかどうかの重要なポイントだと思います。

僕のポットは、冬場ストーブの上に乗せる以外は
直接火にかける事がないせいか
まだまだ雑誌で見たポットほど味は出ていませんが、
もう何年かしていい感じに経年変化したら
このページに写真を追加する予定です。
その写真のポットは、きっとナチュラルにダメージを受けた姿なのであしからず。

サイズ
約幅243×奥行120×高さ160mm
重量
390g
容量
0.9L
材質
18-8ステンレス
生産国
日本
備考
200V IH対応

業務用ドリップポット 0.9L

¥12,925