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7年間の下積み

白木屋さんのまな板

そういえば、まな板の「まな」ってなんなんでしょう?
「まな」ってついてはいるものの、一見すると普通の板です。
それなら「板」でいいじゃないかという気もしてきます。
そう思って調べてみると、諸説ありつつも
大枠では「な」は魚や野菜を表していて、
それに接頭語の「真」がついて
「真魚(まな)板」になったということだそうです。

つまり、名前の由来こそあっても「どういう板がまな板か」
という定義はないみたいなんですね。
そうなるとやっぱり名前は「板」でもいい気がしてしまうんですけど、
じゃあ「どんな板でもまな板になれるのか」というと、
それは別の問題な気がします。

まな板と呼ぶにふさわしい板ってものがあるはずだ。
そう思っていたときに出会ったのが、この「白木屋さんのまな板」です。

京都の福知山市でまな板を作りつづける「京都白木屋さん」。
「白木屋さん」というと会社か居酒屋みたいですが、
実際は職人さんがひとりでコツコツと作られています。
その姿勢はまさに職人で、とにかく徹底的に木と向き合います。

普通なら製材業者しか参加できない木材市場に特別に許可をもらって参加し、
自分の目でしっかりと木を吟味するところからはじまります。
何事も人任せにはしません。国産の、それも良質な木が取れる
但馬と丹後の木だけを選んでいきます。
そうして選んだ木を3.5cm〜4cmほどにスライスして、
屋外で2〜3年ほど自然乾燥させます。

木は乾燥するとどうしても反ったり割れたりしてくるので、
製材前には乾燥が必要になります。
今では効率を考えて機械で人工的に乾燥させることが多いそうなんですが、
急速に乾燥させると中の水分が完全に抜けきらず、
あとあと反りや割れが出る場合があるんだそうです。
だから、白木屋さんではそうならないように、
時間がかかって効率が悪くても自然乾燥を選んでいます。

そうして乾燥させたら、今度は節や割れを避けながら、
まな板として使いやすい形に切り出していきます。
この段階で、まな板にできる部位は元々の木のたった2割ほど。
その2割の中から使える部位をできるだけムダなく切り出そうとすると、
1枚1枚木によって様子が違うから、当然サイズはまちまちになります。

だから、白木屋さんのまな板はおよそのサイズしか決まっていません。
「商品のサイズが決まっていない」なんて
普通じゃちょっと考えられないことですが、
「貴重な木をできるだけ大切に使いたい」という
白木屋さんの木に対する敬意からそうしているんだそうです。

節や割れ、反りすぎている箇所をさけて切り出すと、
ほとんどの場合は木が捻れていることもあって、
木に対して斜めになるそうです。
だから、使える部位は本当に限られてしまいます。

まだまだ寝かす

で、削って仕上げていくのかと思ったら、ここから屋内でさらに3〜4年乾燥させます。
木がそれぞれの癖を出しきるようにはじめは隙間をあけて置いて、
乾燥具合を見て、詰めて並べます。
屋内外でトータル7〜10年。
それだけの時間をかけて完全に乾燥させることで、
何年使っても反らないまな板ができあがります。

数年使ってダメになるまな板なら、ここまですることはないのかもしれませんが、
白木屋さんのまな板は数十年間最後まで
快適に使えることを見据えて作られています。
だからこそ、ここまで徹底する必要があるんですね。

屋内で木が完全に反りきったら、ようやく鉋(かんな)掛け。
まっすぐ平にしていきます。はじめに3.5cm〜4cmあった厚みは
反った部分を削っていくことで、だいたい3cmくらいになります。
この厚みが、削り直しが2回できて収納時に自立もする
理想的な厚みなんだそうです。
鉋掛けされた木肌はしっとりとなめらかで、
手触りはつるつるすべすべ。ムダに何度も触わりたくなるくらい
本当に気持ちいいです。そして、最後に角を落としたらやっと完成。
ここまでで最低7年。う〜ん、長いですねぇ。

白木屋さんにはねこ柳、榧(かや)、朴(ほお)、
銀杏など全部で8種類の素材のまな板があります。
それぞれに素材の良さがあるんですが、
その中でもひと際目を引いたのが「ほお」でした。
明るい色目の他の素材と違って、少し落ち着いたトーンでとてもきれい。
なんだか大人っぽい雰囲気があります。

白木屋さん自身もお気に入りの素材で、
扱っているまな板の中でも1番苦情が少ない優等生なんだそうです。
一般的には清潔な感じのする明るめの木の方が人気らしいんですが、
いやいやどうして「ほお」の色気とも言える木肌には、
それに勝るとも劣らない魅力があります。

木の性質を見てみても、他の木と比べると
ちょっとだけ重さはあるけど、適度に固くてほどよい柔らかさもあるから
包丁の刃を傷めにくいし、まな板の減りも少ない。
それに殺菌作用が高い抗菌性に優れているから、
まな板にはぴったりの素材なんです。
耐火性に優れているという点も「キッチンで使う木の道具」
と考えると安心感があるし、しかも「ほお」はチップにして
牛や豚のエサとして食べさせるくらい安全な素材でもあるんです。

ほおと食べ物のいい関係

耐久性も他の木が20〜25年くらい持つのに対して、
ほおは30〜40年。包丁跡が黒ずみにくく、減りも少ない。
「かや」も同じくらい持つけど、「ほお」に比べると高価です。
価格と耐久性のバランスから見てもやっぱり「ほお」が1番でした。
中でも白木屋さんが「(魚でいう)トロ」と呼ぶ、
色が濃い芯の部分は特に抗菌性も耐久性も高く、
黒ずむこともカビることもほぼない
最高の部位なんだそうです(その部分が多いほど高価)。

それに「ほお」は1500年以上前からまな板として使われているそうで、
まな板の中で最も歴史が古い素材なんです。
それに「ほお」の葉は今でも朴葉味噌などで知られるように、
昔から食べ物を載せたり包んだりするのに使われていて、
古くは万葉集にも「ほほがしは」として登場しています。
つまり、ずっと食べ物と密接に関わってきた木なんです。
こういう背景を知ると、ますますまな板には
「ほお」がいいという気持ちになってきます。

切ったときに刃先が1〜2mmほど木に入り込むため切り残しが少なく、
音も「トンットンッ」と小気味良い。
反らないから、使っていくうちにがたついてきて
危なっかしくなることもないです。
魚や肉を調理しても洗ったあとは臭い残りも気になりません。

意外と手間いらず

木のまな板は樹脂製のものに比べると
手入れが面倒なイメージがあるかもしれませんが、
案外そんなことはありません。

「手入れに天日干しとかした方がいいですか?」
と訊くと「日に焼けるからしなくていいですよ。
あと風通しもそんなに気にしなくて大丈夫です。
木には自然の殺菌作用がありますから」と軽く拍子抜けするくらい、
何もしなくていいみたいです。

乾かすときも「軽くふきんで拭いて、木目に沿って横向きに置いてください。
そうすると黒ずみませんから」という手軽さ。
実際にやってみると、接地面も木目の流れのおかげか
不思議と黒ずんできません。試しにふきんで拭かず、
手で表面の水をピッピッと切るだけにしてみたんですけど、
問題なさそうので今はそうしています(おすすめはできませんが)。
だから、樹脂製のまな板と比べて、特別手間がかかるわけじゃないんです。

樹脂製に比べるとやっぱり重みはあるので、
小回りのきく小さいサイズがひとつあると、
ちょっとだけ使いたいときにすごく便利です。

めんどくさい時はちょっとキャパオーバーでも、
小さい方ですましてしまうこともしばしば。

より使いやすくするために、はじめに割れと黒ずみ予防の
シールが角に貼ってあります。黒ずむのがいやな方は
シールが剥がれてくるまで(使用環境によりますがだいたい1〜2年)
そのまま使うと、黒ずみ対策になります。

洗ってもシールの間に水は入りませんが、
剥がしたときに他の部分との色の差は出てしまうので、
そのあたりはもう好みですね。

側面に押されている焼き印は、
白木屋さんが品質を認めたものにだけ押す証です。
倉庫の裏には、ほぼ完成していて見た目には何がダメなのか
わからないくらいなのに、焼き印が押せないものがいくつか眠っていました。
シールと焼き印以外は最小限の加工だけで、
余計なことはしません。角も変に丸めたりしない。
ただ、木の持つ性質を活かしてあげるだけです。

最低30年

それでもずっと使い続けていくと、さすがに傷も目立つようになってきますし、
黒ずんでくることもあります。そうなったら、削り直しです。

表面を薄く削ってあげることで、またきれいな状態に戻ります。
3cmの厚みで2回まで削り直しできます。
白木屋さん曰く「1回目の削り直しは12〜5年後、
その後また同じくらい使って2回目。そこからまた10〜15年使えます。
だから、最低でも30年は持ちます」だそう。
両面をバランスよく使うのが長持ちさせるコツらしいです。

なので、仮に30歳でまな板を買うとだいたい45歳で1回目、
60歳で2回目の削り直しということになります。
当然削るとまな板は薄くなるので、その分軽くなる。
つまり、重さが苦になる年齢になっていくにつれ、
まな板は軽くなっていくわけです。

道具に限らずつらいことはなかなか続けられませんが、
これならずっと生活を共にしていけそうです。

画像はもう現役を引退して、資料として白木屋さんに残っていた古〜いまな板。
まだ脚がついてた時代のもので、素材は桜。
約45年前のものだそうです。
よく使う真ん中を中心にへこんでいるのが見てとれます。
ここまで使ってもらえたらまな板も本望でしょうね。

あと何年か

ただ、残念なことにゆくゆくは
白木屋さんに削り直しをお願いすることはできなくなります。
白木屋さんはあと何年か、それが5年なのか10年なのかはわかりませんが、
いずれ看板を降ろされるからです。
体力的な限界が見えてきたのと、跡を継ぐ人がいないのが理由です。

「まな板はちゃんと作ると儲からないんです。
小さいものだからそんなに値段は高くできないけど、
長持ちしますからね。だから息子にも無理に継がせようとは思いません」
と、続けることの難しさを話してくれました。
工場を見学させてもらって気持ちが盛り上がっていただけに、とても残念でした。

でも、販売させてもらう以上は
削り直しを継続してお願いできるところがないと困りますよね。
信頼できる家具屋さんに削り直しを引き受けてもらえたので、
ラダーで買ってもらったまな板は安心して使い続けてもらえますよ。
白木屋さん曰く、建具屋さんにお願いするのもいいとのことだったので、
近所に建具屋さんがあれば一度相談してみるのもいいかもしれません。

削り直しについて
料金:2,000〜2,500円(サイズによる)+往復分の送料

帰り際に「あ、よかったら継ぎませんか・笑?」って言われたけど、
とんでもない・苦笑。言ってしまえば見た目は普通の「板」だけど、
まな板として使われることだけを考えて作られた、
まさにまな板と呼ぶにふさわしい板です。
いくら教わっても作れるようになる気がしません。

なくなってほしくないのはやまやまだけど、
後継者が見つからない限り「白木屋さんのまな板」は、
あと何年かで作られなくなってしまいます。
その前にちょっとでも多くの人に使ってもらいたいです。
それで「こんなまな板があるんだなぁ」と
いろんな人に知ってもらえたらうれしいです。
そして、少しでも長く残っていってほしいなぁと思います。

サイズ
「横幅28×奥行16」〜「横幅34×奥行26」のものをリクエストしていますが、入荷毎にサイズが異なります。
厚さ:約3cm
素材
いちょう
生産国
日本
備考
  • 現在取り扱いは「いちょう」「ねこ柳」のみとなります。ほおは完売しており再入荷の予定はございません。
  • ・天然素材のため独特な匂いがする場合がございます。濡れた際に顕著ですが、使っているうちに落ち着いてきます。気になる場合は濡らした状態で塩を擦り込んでやると軽減されるのが早まります。
  • ・カートのサイズ横の「(縦目)」は木目の向きを表します。横目との違いは、縁巻きのテープがないことと、包丁の跡が木目に沿うため目立ちにくいところです。
  • ・業務用や魚を捌く用に在庫にない大きめサイズをご希望の方はお問い合わせください。

白木屋さんのまな板

¥3,300 〜 ¥27,500

サイズ